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2分、遅れます。

タイムリーでも、周回遅れでもない、思考の振りまき。

乾燥肌のダダ

※今日からタイトルは適当につけることにしました。事後通告。

映画を二本ほど観た。ネタバレも若干ありの感想でも書いておきます。

 

【ミスト】

映画 ミスト 予告編 - YouTube

 

「胸糞の悪い後味」 、「これ以上は無い落莫感」、「チン毛」などと以前から映画ファンの筋では散々な云われようで、話題を掻っ攫っている大作。

突如街に発生した正体不明の濃霧。

閉鎖空間に隔絶された人々の、歪に変容していく内省的な空間(秩序を保とうとする) と、正体不明のエイリアンが跋扈する白い霧に覆われた外界(ひたすらに弱肉強食、無秩序を欲する) とのコントラストが秀逸で、途中まではホラーというよりは、サスペンスを観ている感覚に近い。普段、自分が絶対視している価値観など、案外あやふやで、簡単に崩れてしまう豆腐のように脆い物だと戦慄する。

 

・・最後は本当に救いようのない、"苦"笑撃のラストなので是非ともご覧あれ。

 

次。

レバノン

映画『レバノン』予告編 - YouTube

 

「こちらは、"王冠"。ようこそ、レバノンへ。」

1982年、イスラエル軍レバノンへ侵攻。

10年余り続く内戦状態に陥ったレバノン戦争の緒戦、一台の戦車からのスコープ映像がその実情を生々しく切り取り続ける。物語全編が、慟哭と怒声が錯綜する、その車内からの視点で描かれており、観るものを否応無しに「戦場のリアル」へ引き摺り込む傑作。

 

当時の中東情勢に疎いと、置き去り感はあるものの、斬新かつ緊迫感のある演出で、まさに物語終盤の「爆走」の如く、物語に一気に引き込まれる。

 

自分の臆病さから同胞を、一般市民を死なせてしまった狙撃手。自分の手は汚したくない、恐怖から虚勢を張り続けるリーダー、正義感と現実逃避の狭間で揺れ続ける機関士(弾込め役)・・・

 

歴史、男臭さ満載のヒューマンドラマ、アクションの要素てんこもりのお奨め作。

 

 

 

 

 

中東かく語りき_シリアの悲哀

News week japan 2/4付 シリア内戦終結を目指す地雷だらけの和平協議 より。

 

ジュネーブの和平協議は難航中。その間、先月31日にシリア首都・ダマスカスにてISILによる、シーア派モスクに向けた自爆テロ

※ISILの憎悪は基本的には米欧に向かない。彼らの目的は”Islamic ”State” in Iraq and the Levant"の名の通り、シリア/イラクに跨る中東の要地にて自分たちだけのオアシスを作ることだからである。そのために根絶すべきはイスラムの異端、シーア派(イラン勢力)、アサド政権、クルド人勢力なのだ、ということ。

 

ロシアは、シリア情勢においてはアメリカも真っ青のヒーロー役を演じたい。ウクライナでは今も駆り立てられた民衆の暴動といった混乱が生じている。冷徹なヒールの立場にはそろそろ懲り懲りなのだろう。

 

以下、"ロシア"以降、完全な受け売り。

※っても中東情勢に関してはほぼ例外なく受け売りなんですが・・

 

ロシアはシリアを二分割にしたいと懇願する。

 

シリア領土内のタルトゥースにはロシア海軍が常時滞留している。お隣、ラタキアはアラウィー派(アサド大統領一味を有するイスラムの一分派。大別するとシーア派セクトに属す)の総本山。これにレバノンシーア派ゲリラ・ヒズボラの影響力が強いホムス、クサイル等、各所を包みダマスカスを拠点にする。そこに自分たちの忠実な第五列として働く、"アサドの帝国"を築くことが目的だからだ。そのこころは当然、バルト三国/ポーランド侵攻に向けた、NATOへの掣肘体制構築。

※そういやアメリカ大統領選話題のトランプさんってプーチンシンパらしいね。負けたけど。

 

 

アサドは、国際社会に対し十二分に知らしめてやりたい。"シリア危機は、国外勢力が生じさせていた。"

チュニジア/エジプトで炸裂した革命の余波は、確かに10年以上も独裁政権を維持するアサド政権にも影響を与えた。しかし革命当初、市民の反応はどちらかというと冷ややかなものだった。それをSNC(シリア国民評議会。国外に住む反政府分子と、エジプト由来のイスラム主義団体であるムスリム同胞団が中心勢力)が反体制デモを扇動し、彼らと同じくスンニ派であるアラブ諸国が、世俗主義のアサド政権打倒を掲げ、"自由シリア軍"といった武装ゲリラを援助することで、シリアの政情をボロボロになるまで蚕食することを考えた。

 

サウジやUAEといった湾岸の金持ち国家は、何万と溢れたシリア難民を徹底的に拒む。彼ら曰く、"自国民の安全を保持する"ためだと。つまり、イスラムの盟主であるはずの大国一同が、"うち等が奉じているのは、粗野で、危険な宗教なんですよ"と暗に認めてしまっている。世界中で頻発しているイスラミック・テロの9割方は、サウジの国教であるスンニ派ワッハーブ主義者の手によるものであり、彼らはイスラムの世俗化、他教徒との共存を模索するムスリムの姿を徹底して嫌う。"イスラム教"が過激に思われれば思われるほど、欧米からのカネと保護を取り付けられる。永遠無限のマッチポンプだ。

※彼らのシリア難民受け入れ拒否で得られるメリットにはイラン潰しという側面もある。彼らは難民を、自国からそう遠すぎない周辺国に散らばるようコントロールしておきたい。というのもシリアの国民の7割強はスンニ派で、なかんずく反体制思想を持った暴れたい盛りの若者には簡単にゲリラとしての適正を見出せるからだ。現にレバノンへと逃げ込んできたシリア難民の一部は国内過激派と合流、彼らはヒズボラの本拠地を攻撃したがっている。イランの手先で、通称"中東最強ゲリラ"のヒズボラの力が弱まることは、必然的にその親玉の影響力の低下も意味するので。

 

アサドは覚悟を決めているようにも見える。テロリストを粛清し、どんな手段を使ってもシリアの国体を護持する。その為にはタル爆弾だろうが、スカッドミサイルだろうが市外のど真ん中で躊躇わずに使用する。

それによるコラテラル・ダメージ(巻き沿え)を市民も半ば了承している。彼らとしては、とにかく国外へテロリストを追いやってほしい。

 

 

3年程前のこと。混乱を極めつつある国内情勢について、彼は、ロシアの国際放送局であるロシアトゥデイから以下の質問を受けた。

 

"この内戦が終わったとき、あなたはどのような方法であなたの国民と和解するつもりか?"

 

彼は、半ば嘲笑気味に自信満々な表情でこう返す。

 

"私たちの戦いは内戦を孕んでいません。私と国民の間に問題が存在していないからです。アメリカは私を憎み、西側も私を憎み、トルコも私を憎み、湾岸諸国も私を憎んでいます。この上に国民からも憎悪を買っているとしたら......私はなんでここに居ることが出来るんですか?"

 

 

絶え間なく続く、"内戦"の最終決着は、"シリアに勝って、アサドに負けた"、か。

 

 

シリア国民の約6割は今でもアサド政権を支持しているという。

 

 

中東かく語りき_イスラエルの国益

ストラテジー・ペイジ 1/29付 イスラエル/"ナイフ・インティファーダ"を賛美、あるいは Israel: Praise The Knife Or Else より。

 

エルサレムで最近、血気盛んなパレスチナ人イスラエル人に対し携行ナイフで襲い掛かる事件が多発しているらしい。それに対し、穏健派/ファタハ管轄化にあるパレスチナ人が"インティファーダ(蜂起)だ!"と喝采しているとかいないとか。

 

ガザ地区ハマスが疎ましがられている間に、ヨルダン川西では腐敗しきったファタハよりもハマスへの傾倒が盛んになっている。恐らく選挙を行えばハマス支持が多数を占めるだろうとのこと。

 

イスラエルハマス掃討(ガザ空爆)はある特定のスキームに基づいて行われる。"雑草は地表5cmを残して刈り取れ"。要は対立する者をきれいさっぱり除去してしまわないこと。それを行ってしまうと、地表に太陽光/雨水などの栄養分が溜まってしまい却って自分たちでも手に負えない頑丈な草(テロ組織)が跳梁してしまうから。

 

イスラエルは中東地域で紛争/内戦といった騒ぎが絶えない、"カオスの恒常化"を望む。つまり、

政情の安定した周辺国家が核武装。→国土から人民逃げ出す。→シリア化不可避。

これをどうしても避けたい。イスラエルにとってハマスは理想的に弱りきった敵で、出来れば永続的かつ大いに反目して頂きたいと懇願している。

※という訳で、彼らにとって国連の二国家樹立案は飲めても、リビアの故・カダフィ大佐が提唱していた"イスラチナ構想"ーパレスチナの地に、政教一致ではなくイスラエル人とパレスチナ人共存する世俗国家を樹立するーは論外だった。彼らとしては、元々自分たちの土地だから正当性がある、と世界に訴えたかったから。

 

ファタハハマスは2月、カタールにて合同協議の場が与えられる模様で主たる議題は自治政府の単一化、とのこと。

 

どちらにしても、イスラエルは、これからも小手先で捻られる"非力なインティファーダ"を欲しているはずだ。

 

中東かく語りき_イエメンの憂鬱

ストラテジーペイジ 1/13付 イエメン-終えし希望- Yemen:Hope Has Diedより


昨今話題の(?)中東情勢より。

アラビア半島、スンニ派の盟主サウジアラビアの南にイエメンという国がある。

 

長年の政情不安、特にアラブの春以降、この国はサウジアラビア(スンニ) v.s.イラン(シーア)の代理戦争の地として機能してきた。

 

アラブの春の余波を受け、20年以上もの間国を統治してきた独裁者、サレハ(シーアの分派であるイスラム/ザイド派)が失脚し、アメリカ/サウジアラビアの推薦を受け後任となった、ハディ率いる国内のスンニ派セクトキャプテンシーを得た途端、国内のシーア派ゲリラ、"フーシ"がそれに激昂、サレハに忠誠を誓う前政権の中枢と結びつき、北部の首都、サナアを制圧しクーデターを遂げた。そして依然としてサナアはフーシにより統括されており、南部の中心都市、アデンに陣取るスンニ派過激組織、AQAP/アラビア半島アル・カーイダやハディ派政府軍と激しい抗争を続けている。

 

サウジアラビアは昨年4月頃からイエメンに向けて大規模空襲を仕掛け続けている。シーア派であるフーシは、その本尊のイランに多大な物資/軍事援助を受け、サウジの国境付近の油田地帯、ひいては国境付近のマイノリティ(多くはサウジ国内で迫害を受けるシーア派)を煽動し抗争を続けている。※イランは公的にはフーシへの援助は否定している。ただし、サウジ国境の治安が脆弱になればイランにメリットしか無いのは明らかであり、その上で"人道支援"という名目で、せっせと物資を運んでいる。

 

サウジがなぜこの国への空爆に拘るかといえば、表向きは、フーシに抑圧されている人民の解放というものだが、真意は、"対イラン戦争(シーア殲滅)に向けて、空軍兵器の性能の程を試しておきたい"というところだろう。

 

サウジは空軍力でしかイランに勝る手立てがない。踏み込んで言えば、彼らは決して自国軍(陸軍)を強化することが出来ない。豊潤な石油利権は確かにサウド家と、その統治下にある国民の生活基盤を万全にした。しかし、それがもたらす"人民総生活保護"状態は確実にサウジ国民の精神を退廃させ、国家に忠誠を尽くす軍人の士気を著しく堕落させた。その代わり、カネにものを言わせて買いそろえた最新鋭航空兵器はピカピカで、今や西側陣営も羨むほどの贅沢戦争を展開することも可能だ。

 

彼らの最も恐れるシナリオは、このままフーシを始めとしたシーア派勢力が膨張して国境付近に軍が張り付けにされることだ。そうなればペルシャ湾岸の警備は手薄となり、イランのお家芸である、湾岸からの高速ボートによる上陸作戦により何十万ものイラン陸軍の上陸を許すことになる。

※先のイランとの国交断絶においてスーダン/バーレーンを真っ先に囲いこんだのもそのためかもしれない。スーダンにはイランの対外工作員"クッズ"が暗躍しており、紅海側から攻め入れば、イスラムの聖地であるメッカは目と鼻の先である。バーレーンでも、クッズによるスンニ派政府への反乱デモ煽動が数年前に起きておりサウジ側は肝を冷やした。

 

イランもサウジのそうしたマヌーバは百も承知で、イエメン情勢には気を揉む。

サウジにとっての救いが南部アデンの油田地帯がスンニ派・セクトのAQAPに牛耳られていることであり、イエメン第3の都市、サナアとアデンの丁度中間に位置するタイズ市をフーシが奪取した報を受けると、サウジ軍のインフラ破壊が始まると見たイランは、サウジ側の空爆を"慎重さの欠如"と非難し、またサウジ側もイランのフーシへの武器提供を停止するよう命じ、非難の応酬となった。

 

イエメンの政党多数は今でもサレハのパトロンであり、西側/サウジはそれが気に食わない。対するイランが親玉のシーア派陣営はスンニ派から迫害を受けるサレハをかくまうことでシーア派の一致団結を求め、混戦は泥沼の様相を呈している。捉えようによっては先行きはシリア以上の絶望状態だ。

 

イエメンではシリア同様、内戦により何万もの難民が輩出されており、失敗国家の烙印が押されて久しい。大国の宗派対立による、代理戦争、壮大な"実験"、それが公然と行われているのがイエメンの現状と言える。



※以上、半ば知的道楽でやっている9割方受け売りの中東分析でした。誤謬などがあれば遠慮なくどうぞ。恐らく、「あ、すんません」としか言えませんが。

 

 

 

 

年の瀬

新年まであと10分という状況下でこの文章を完結させないといけないという自分ルールをたった今課しましたので急ぎ足でいきます。遅れたらx2な。


何か創作物でも拵えて楽しもうかというコンセプトで始めた当ブログですが気付けば半年以上も音沙汰無し、やはり原理主義的に創作物のみと意識しすぎると逆向きのベクトルで自然なものは書けないもんですね。ああんあと5分という訳でこれから来年はその時々で関心を得たもの、奇異に感じたことなんかを倩と書いていきたいと思う次第です。ひとまず最近は中東情勢が面白くなってきているのでそれについての言及もしていこうと思います。

くそ、改行がそれではまた来年。皆さんよいお年をお迎えください。シリアの皆さんも挫けずに頑張ってくださいね間に合ったかこれ

ホタル-3


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上空には、いよいよと白味を増した巨大な月の光が、硝煙を透過しつつゆったりと揺れている。

 

彼女は、僕に視線を傾けている。地面を撫でていたその指は、今は懐から取り出された一冊の文庫本に書かれたある1節をなぞり続けている。

 

僕にはもうこれ以上、彼女に語りかける言葉は見当たらない。

 

「読んで」、と口に漏らした彼女の指先に触れられているのは、傷みきったページの隅に書かれている、判別できない物語の続きだ。

 

 

散っていった花火の、細砕した消しズミが静かに池の底に沈んでいく。

ケースの中の、あの金魚たちもそこに混じっているのだろうか。

 

ホタルが狂ったような光彩を水面に放ち、僕の口は、途切れてしまった物語の一編を静かに編み始めた。

 

「もし、僕たちにその時が来たら、一目散に街を去らなければいけない。油で濁った雨が降ってくる前に。だけど、その前に僕たちの命はここで尽きてしまうのだろう。

 

叶うのならば、お互いの手を直に取り合い、深い水底へと身を投げてしまえるだろう。

 

登りつめて行く、二対の泡沫は、水面に僅かばかりの波紋も作らずに静かに消えていき、長い、長い、瞬きの間に、僕らは........」

 

 

彼女の瞳から温かい泪の粒が、一筋、頬を垂れていく。

 

次々に零れ落ち、彼女は泣いて、泣いて、泣いて、泣きながら静かに佇まい続けた。

 

池の光彩が、敏感になった網膜を刺激している。

濡れた彼女の頬に反射したその光と、泪に滲んだその瞳が、僕を捉えた瞬間、僕は言葉もなく彼女の華奢な両腕を取り、そのまま、柔らかい地面の上に、いとも簡単に組み敷いてしまった。

 

 

 

 

あれから、もう何年も経ってしまっている。僕は相変わらず茫然たる顔つきでこの街に留まり続け、判然としない視線を揺らめく池の水面に投げかけ続けている。

 

舌の奥に、まだあの時の味を思い出せる気がする。彼女も、似たように僕のことを思い出せるのだろうか。見えない筈のその瞳に、あのホタルたちの光彩を映し出すことが出来るのだろうか。僕とは似ても似つかない誠実な男のじめりきった肌を、その身一杯に感じられているのだろうか。

 

 

僕を、赦してくれるのだろうか。

 

 

濁りきった池の水がただ不機嫌そうに微風に変化を委ねている。昨年を境にこの街のホタルはとっくに死に絶えてしまったらしい。

初夏の西日が陽炎を燻らせ、満開に咲いた睡蓮の花弁が、暑さで閉じかけた僕の瞳の隙間で幻影のように漂っている。

 

それに背を向けた僕の後ろで、水音が響いた。

飛び立った巨大な鷺の羽根の衝撃で、重々しい波が池全体を襲った。

 

 

細りきった根元を絶たれたその花は、鮮やかな幾重もの葉を水面に残し、池の底に沈むと、もう二度と見えなくなってしまった。

 

 

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ホタル-2


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 夜の帳が少しばかりか濃度を増すと、池の周囲の様相も刻々と変化を始める。街から発せられる数々の嬌声が幻聴の様に響いてくる。それに混じって、丸々と肥えたウシガエルの鳴き声が静かに揺れる水面に染みゆく。

 

 池の中心に浮かんでいるだけの筈だった睡蓮の花が、別の箇所にも目に付く。

 

 すべてを溶かし尽くしてしまいそうな暗い闇の中にあって、真っ白な何片もの花弁を湛えた着物を身に纏い、ゆったりとした長い髪を夜気に湿らせながら、細く伸びた指の先を地面に遊ばせている。

 

 

 池の縁に、一人の少女が座っている。

 

 

 僕の中で、何か得体の知れない感覚が一斉にさざめく。

 

 少しずつ歩を進めて行き、ようやく掴むことの出来た彼女の輪郭は、昇り始めて間もない青白く、幻妖な月の光を受けて、半透明に見えた。

 

 彼女の視線もまた、一定している。

 

 池の遠くの闇から、羽化したばかりのホタルの淡い光が染み出している。いくつかの閃光に紛れて、いつの日かこの街を通り過ぎていくであろう僕の姿も目に浮かぶ。

 

 隣り合うとも、距離を置いているとも言えない僕と彼女の間隔を、拙く、ただ力強く短い言葉の応酬が上滑りしていく。

 

 「祭りに飽きて、ここに来たのか。」

 「ここの近くに住んでいるのか。」

 「その着物は、どこの誰があしらえたものか。」

 

 

 「本当に、目が見えないのか。」

 

 

 彼女は、一貫して穏やかだった。

 腫れ物に触る様な同世代の人間からの扱いも、目に余る程の過保護の裏側にある、実の肉親が抱く彼女への憎悪も、全て、包み隠さずに話してくれた。

 

 僕は、彼女の言葉を受け入れるより他なかった。丁度、睡蓮の根が池の水から養分を攫う様に。

 上空には、いよいよ密度を増してきた月光が、雲煙を透過しつつ呻いている。

 

 突如として、無数の花火の粒が夜空に向けて舞い上がった。

 大袈裟な破裂音とともに炸裂していくそれは、造花が見せる華やかさを暫時呈しては、次々に肉眼では感知できない程に小さく、惨めな消しズミとなって地上に落ちてゆく所だ。

 

 彼女の足下に生えた葦が揺れる音が少しばかりか途絶え、代わりに街にまだ蔓延っている様々な艶っぽい声が聞こえてくる。

 

 彼女は、薄く笑っているようにも見えた。見えない筈の彼女の瞳は、いや、見えないがための彼女の瞳は、ただひたすらに、翡翠色の曲線を描くホタルの発光を写しているばかりだ。

 

 僕は不意に、花火師の手元が狂い、街全体に散った火花に燃え盛る人々の姿を想像する。

 

 そうしたならば、彼らの緩みきった表情から一瞬にして微笑は消え失せてしまうだろう。

 

 そうしたならば、醜く焼け爛れた自らの姿にようやく気付き、絶叫を上げ続けるだろう。

 

 そうしたならば、お互いの醜い姿を罵り合い、終いには花火の消しズミの如く燃え尽きてしまうだろう。それで良い。

 

 この街に、開ききった睡蓮の花弁と、名も無いホタルの明滅以上に美しいものがあってはならない。

 

 この世界に、彼女以外に美しいものがあってはならない。

 

 今この瞬間に、彼女の隣に居るのは、僕でなくてはならない。

 

 

 それを、彼女も、感じていなくてはならない。

 

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